YESかNOか半分か

元ニートが、再びニートになったりならなかったり。

YESかNOか半分か

父と娘、初めてのロード・トリップ

「今仕事が終わって、これから岡山まで行くけど一緒に来ないか?」

珍しく父からLINE電話でそう連絡が来た。特に予定も無く家でダラダラ過ごしていただけだったので
うん、いいよ
と、二つ返事で了承し、完全にノーメイクだったのでいそいそと私は化粧を始めた。

小学生の頃、家族でよく鳥取の皆生温泉で夏休みを過ごしていたので、高速道路で通り過ぎることはあったけれど、実際に岡山の街を観光したことは無かった。
今回は父の所用について行くだけだったので残念ながら観光目的では無かったけれど、初めて岡山に行くことができるのは嬉しかった。
知らない土地や、行ったことが無い所に行けるのは純粋に嬉しい。

車で片道2時間と少しのロードトリップ。運転は私のペーパードライバー歴が長いので全て父親任せに。
よくよく考えてみると父とこうして2人で出かけることなんて、今までほとんど無かった。
私が3歳になる頃には妹が生まれていて、そうなるとどこへ行くにも妹がくっついてくることは必至。
なので父と2人で何かをしたというのは、私の記憶の限りでは「母が妹を産む際に産婦人科に入院していた時に、父と2人で数日家で過ごしていた」という事ぐらいなのだ。
その時の私と父の仲の良さは、今と比べると「格別に良かった」という事だけは鮮明に覚えている。

反抗期などを経験し成長した私は、悲しきかな母の方にべったりになってしまい、父のには全く寄りつかなくなっていた。
父とは全く喋らないというわけではないが、私と父との日常的な会話は
「今日の晩ご飯は何?」
という父の問いに対して、私が
「コレとコレと、コレ」
と言うのがデフォルト。
最近は、弟が受験生なので
「何かアドバイスをしてやってくれ」
と父に頼まれたくらいで、必要最低限の会話しか交わしていない。わざとそういう風にしているのでもなく、ただこれといって話すことがないからそうなってしまうのだろう。

数ヶ月前に、妹が父と2人でサザンオールスターズのライブへ行ったのだが、「妹と父」という組み合わせも「私と父」同様に珍しい組み合わせなので、気になって感想を妹に聞いてみたところ、
「行きも帰りもお父さんと全く話す事が無くって、終始無言だった。お母さんはお父さんと普段何の話をしているの??」
という彼女の発言に、父のいない食卓で母娘3人笑いこける羽目になった。

母の回答はというと、
「んー……そうねー野球とか野球の当番の話かな」
と、弟の野球チームの話しか出てこなかった。
確かに父と母の会話を聞いてる限り、本当に弟の野球の話しかしていないので、弟が存在しなければ夫婦間の会話のネタに尽きてしまうのではないかと思い、「熟年離婚」という四文字が頭に浮かんで消えた。

―― そんなことを思いだし、今回の片道約2時間・往復4時間以上にものぼる車という密閉された空間の中で、「父とまともに話せるのだろうか、何を話したらいいのだろうか」と少し私は不安になった。

父と会話が途切れてしまい、手持ち無沙汰になってしまったとき用にと、急いで充電したKindleを鞄の中に忍ばせる。
こうして父とほぼ初めてのロードトリップなるものに出かけた。

http://www.flickr.com/photos/26487906@N00/4736796413
photo by kaysha

私が選曲した最近の洋楽ヒットが流れる車内―― まずは話しやすい話題から入ろうと思い、今回の所用について父に話題を振った。
うまい具合にその話から会話も広がり、関西圏に甚大なる影響を及ぼした台風11号の話で盛り上がる。
「台風で仕事に影響はあったか?」
と父に問うと、そこから普段は滅多に聞くことのない、父の仕事の話になった。

父は母に仕事の話を全くと言っていいほどしないし、食卓でも仕事について私たち子供に対して話すことは無かった。
仕事に関することで唯一父が発言する物事といえば、「明日はきっと残業だ」とか「今週末は休日出勤する」ということくらい。

私が父の仕事のジャンルを若干かじっていたということと、その私しかその場にいなかったからだろうか。いつもとは違い、嬉しそうに自分の仕事内容や業務のルーティンについて饒舌になった父に私は内心驚いた。

父は家庭に仕事を持ち込まないタイプの人間なので、あまり家族の前で仕事の話をしたくない人だと思っていたが、それは私の思い違いだったのだろうか。
管理職に就いている父は、自分がどのような立場にあり、どのようにして仕事を進めているか、そういった詳細を初めて私の前で話してくれた。

幼い頃から、友達と家族の話になった際に必ず聞かれる「お父さんは何をしている人ー?」という質問が、私は苦手だった。
父が勤めている会社の社名や場所は答えられても、一体全体そこで父が何の仕事をしているのか私は一切知らなかったからだ。
母に聞いても「よくわからない」の一点張りで、今考えてみるとそういう意味では本当に母は分かっていなかったんだろうなと思う。
今回は、久しぶりに父とまともな会話が出来たという事と、今まで見せることの無かった仕事に取り組む父を少しだけ知れたのが良かった。

岡山で父の知り合いに会った際には、「娘さんと2人で仲良いんですね-!うらやましい限りだ。」と言われ、すかさず父娘で「「いや、全然」」と完全否定したのだが、幼き日のままなら「「そうなんですよ」」と素直に肯定できたのかもしれないと思うと、どうしてここまで捻れてしまったのかと残念にも思う。
いずれの日か、私たち父娘にそう素直に肯定出来る日が来ることを願うばかり。

そして、父との会話が続かないかもしれないと思い鞄に忍ばせたKindleは、車酔いしそうだった為に一度も日の目を浴びること無く、その一日を終えたのだった。